劣等感は誰にでもある感情で、仕事する中で感じることも多くあります。
劣等感を感じるシーンや感じたときの対処法はさまざま。
また、「劣等感をばねに頑張る」という人もいれば、「劣等感に押しつぶされて辛く、どうしようもない」という人もいます。
今回は社会人の男女500人に「劣等感を感じる瞬間」や「劣等感を感じる相手」についてアンケート調査を行いました。
- 調査対象:社会人の男女
- 調査期間:2025年10月17日~18日
- 調査機関:自社調査
- 調査方法:インターネットによる任意回答
- 有効回答数:500人(女性358人/男性142人)
- 回答者の年代:20代 22.6%/30代 34.6%/40代 25.4%/50代以上 17.4%
調査結果に対して、一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会理事の徳吉陽河氏よりご考察いただいております。

■監修者プロフィール
徳吉陽河氏
一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会・一般社団法人コーチング心理学協会の理事・講師。専門はコーチング心理学、ポジティブ心理学、認知心理学(脳科学)などで、教育プログラムや心理アセスメント開発も担当している。
資格は、コーチング心理士、公認心理師、キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、ポジティブ心理療法士として教育・医療・福祉・産業分野で活動している。
『ポジティブ大全』『問いのコツ』『コーチング心理学ガイドブック(監修)』などの著書・翻訳書を持つ。累計4,000名のコーチング・カウンセリング、6,000回以上のワークショップ・セミナー実績があり、大学・行政・企業法人・医療・福祉機関などで講師を担当。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」という信念を大切にしている。
一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会:https://www.positive-counselor.org/
一般社団法人コーチング心理学協会:https://www.coaching-psych.com/
劣等感を感じる瞬間は「経済力の差を感じる」

社会人の男女500人に「劣等感を感じる瞬間」を聞いたところ1位は「経済力の差を感じる(28.0%)」でした。
2位「仕事の能力で劣っている(20.0%)」と答えた人も2割以上、次いで3位「キャリアの差を感じる(16.6%)」となっています。
能力の差だけではなく、置かれた状況の差に劣等感を抱く人も多くなっています。
状況とは「経済力の有無」「今までのキャリア」「ライフステージ」などです。
また、職場で感じやすい「仕事の能力」「人間関係の広さや深さ」で劣等感をもつ人もいました。
1位 経済力の差を感じる
- 相手と話をしていて、旅行に行くなどと聞き、お金に余裕があるのを感じたとき(20代 女性)
- SNSやネットで、明らかに自身より稼いでいる人を見たときに感じます(30代 男性)
- お金がなくて欲しいものや必要なものを買えないタイミングで、知り合いのSNSで「買い換えた」などと見たとき(50代以上 女性)
1位は「経済力の差を感じる」でした。
「会話」「SNSの閲覧」など日常的な行為の中で、他人と自分を比較し、経済力に関する劣等感を抱く人が多数。
SNSでは裕福な成功者が日常生活を投稿していることも多く、自分には買えないようなブランド品や車・家などを見ると、劣等感が刺激されます。
SNSでは他人のお金の使い方や生活レベルが可視化されやすく、つい比較してしまうのですね。
友人や同僚と接していても、相手の持ち物や、会話から窺い知れる暮らしぶりから裕福な様子を感じ、気持ちが揺れる人もいました。
2位 仕事の能力で劣っている
- 仕事で同期よりも成績が悪かったとき(20代 女性)
- 仕事で他人の成果や評価を見たとき。自分との能力差を意識してしまう瞬間に劣等感を抱きます(30代 男性)
- 頑張って仕事をしても、他の人にすんなり抜かれたとき(50代以上 女性)
2位は「仕事の能力で劣っている」でした。
組織の中で働いていると、営業成績など、数字で成果が可視化されることも多くなります。
日常的に競争や比較にさらされており、競争の中で下位にいると、劣等感が大きくなってしまうと考えられます。
また「後輩のほうが、自分より重要な仕事を任されている」「作業スピードや仕事量が違う」といった形で能力差を痛感することも。
つまり周囲に優秀な人がいると、能力差について劣等感を抱く原因のひとつになると言えます。
3位 キャリアの差を感じる
- 仕事において、年下の社員が自分より上の役職に就いたとき(20代 男性)
- 何の資格もなく、誰でもできるようなパートをしていること(30代 女性)
- 子どもの同級生のママさんが、生き生きと仕事や自由を謳歌している姿に劣等感を感じます。夫が激務のため自分がパートになってキャリアを諦めたため、キャリアアップして輝いているママさんを見ると、自分が劣っているように感じます(40代 女性)
3位は「キャリアの差を感じる」でした。
社会人からは「正社員と非正規雇用の差を感じる」「昇進スピードが遅い」など、キャリアに関する劣等感も多数寄せられました。
家庭の都合でキャリアを諦めた人など、キャリアへの意識が高い人ほど、差を痛感しやすい傾向にあると考えられます。
またキャリアは収入にも直結するため、「友達がフルタイムで働いて出世しており、昇給した話を聞いたとき」など、キャリア差と経済状況をセットで答えた人もいました。
4位 人間関係が上手く築けない
- 人間関係で周りに人が集まるかどうか(20代 女性)
- コミュニケーション能力が高い人を見たとき。職場で自分より随分後に入ってきたのに、周りの人たちと談笑して深い関係を築けていることが伺えたときに、劣等感を抱きます(30代 女性)
- 周囲と上手く話せず、他の人たちが雑談などしているときに混ざれずひとりぼっちでいるとき(40代 女性)
「人間関係が上手く築けない」が4位でした。
職場にいるときに、人間関係を築くのが上手な人に出会い、劣等感を抱く人もいます。
コミュニケーション能力に自信がない場合に抱きやすい劣等感です。
例えば、周囲の雰囲気に馴染めない、会話に入っていけないといった状況があるときに、「みんな楽しそうなのに、どうして自分は入れないのだろう」と劣等感を抱くのですね。
新しく入って来たのに、先輩である自分より周囲に馴染んでいる人がいる場合には、「負けた感」「抜かれた感」が強くなると考えられます。
5位 容姿に自信がない
- SNSで容姿が可愛い子を見たときや、スタイルがいい子を見たとき。彼氏が他の女の子を褒めたとき(20代 女性)
- 35歳で薄毛が進行してきているので、頭髪についての話題の際もたまに感じることがあります(30代 男性)
- 身長や顔・肌など外見に注目されたとき(50代以上 女性)
「容姿に自信がない」が5位。
SNSで容姿の優れた人が行っている発信や他人からの評価によって、容姿に劣等感を抱いている人も。
SNSには加工された写真やベストショットが投稿されるので、他人の魅力を強く感じ、自分との差を感じやすくなります。
容姿の優れている人が優遇されていると感じたときなど、容姿のせいで、仕事の場で不利益を被っていると感じている人もいます。
整形などで容姿を変えることは可能ですが、お金と勇気のいることなので、簡単には劣等感の原因をなくせません。
6位 学歴に自信がない
- 転職先の同僚や先輩が大卒なのに対し、自分は高卒なので、学歴に劣等感を感じたことはありました(30代 男性)
- いい大学を出ている人たちの会話にうっかり混ざってしまったときに、まったくついていけなくて悲しい思いをしています(30代 女性)
- 私は学歴を記入するときや誰かに学歴を聞かれたとき、高卒ということで劣等感を抱いてしまいます。自分の子どもや夫は大卒なので、家庭内でも少し劣等感をもってしまいます(50代以上 女性)
6位は「学歴に自信がない」でした。
「ビジネスの場では学歴を聞かないほうがいい」と言われることもあります。
ただ実際には周囲の学歴を知っていたり、聞かれたりして、自分と周囲を比べて劣等感を抱いている人もいました。
学歴で馬鹿にされたという体験談はなかったものの、「応募できない仕事や資格がある」「会話についていきにくい」といった回答が寄せられています。
学歴の追加はできますが、過去の学歴を書き替えることはできません。
劣等感を手放せるようになるまでは、解決も解消もできずに続いてしまう要素だと言えます。
7位 ライフステージの差を感じる
- 友人が結婚していき、自分は人生のステージが止まっていると感じる(20代 男性)
- 友人から結婚や妊娠の報告を受けたときに、自分は独身なので劣等感を抱いてしまいます(30代 女性)
- 同級生や年下の人が「結婚して子どもができ、家を購入して」など順調な様子を年賀状などで知り、自分の状況を比較してしまったとき(40代 男性)
7位には「ライフステージの差を感じる」が入りました。
周囲が、結婚・出産・マイホーム購入といったライフステージへ進んでいく中、自分のライフステージが止まったままであることに劣等感を抱く人も。
「自分は結婚したくない」「子どもはもたなくていい」と考えていればいいのですが、進みたいのに進めない状態だと、羨ましさが劣等感につながります。
結婚はひとりだけの努力でできるものではありませんし、身体面の問題で妊娠・出産が難しい人もいます。
自分が叶えたくてもなかなか叶えられないことを他人が叶えていることに、劣等感を抱くのですね。
劣等感を感じる相手は「友人」

「劣等感を感じる相手」として最も多かった回答は、1位は「友人(16.4%)」です。
2位「職場の同僚(11.8%)」、3位「仕事ができる人(9.4%)」、4位「同世代の人(9.0%)」が続きます。
- 同級生に感じることが多いので、SNSは極力見ないようにしている(30代 女性)
- 同級生や元同期など近い存在と比べがちだけど、自分は自分だと思うようにする(40代 女性)
- 自分よりも経験が豊富で、物事をスムーズにこなす人に対して劣等感を抱くことが多いです。ときに自分と同じ年齢層で成功している人に対してよく感じます(20代 女性)
- 自分より優秀と評価されている年下(20代 男性)
- ハキハキしてコミュニケーション能力の高い人が羨ましすぎて、自分も自己啓発本を読んだりして克服に努める(30代 女性)
友人、職場の同僚、同世代の人など、身近な人や自分と似た属性の人に劣等感を抱きやすいとわかります。
例えば同級生は同じ学校に通って同じように勉強してきたはずの人。
職場の同僚は、自分と同じように採用試験を通過して、期待されて入社したはずの人。
なのに相手のほうが優れていると感じたときに、「どうして」と釈然としない気持ちを抱えやすいのだと推測できます。
また、仕事ができる、コミュ力が高いなど、自分より優れている相手にも、劣等感を抱きやすくなっています。
とくに劣等感をもってしまうのは、「資格を取って働いている友達」「経済的に余裕のありそうなママ友」など、身近かつ自分より優れていたり成功していたりすると感じる人です。
なお劣等感を抱いたときには「自分は自分だと開き直る」「自分も努力する」といった対処をして、乗り越えている人もいました。
SNS経由で劣等感をもってしまう人も多いため、SNSを見ないようにしているという声もありました。
劣等感が成長につながった人は38.6%

「劣等感が成長につながった経験はありますか」と聞いたところ、「ある(38.6%)」と答えた人が4割近くで、「ない(21.2%)」と答えた人より多くなっています。
劣等感を抱いたときに、自分も相手に追いつけるよう努力する人や、自分なりの良さを探す人もいるため、成長につながるのだと考えられます。
なお「成長につながった経験がある人」「成長につながった経験がない人」それぞれの「劣等感を感じる瞬間」を比べてみると、以下の結果になりました。


「成長につながった経験がある人」は、努力で克服できそうな「自分の能力」に劣等感を抱く人の割合が高いとわかりました。
一方「成長につながった経験がない人」は、経済力の差やキャリアの差といった目に見えやすい状況の差に劣等感を抱く人が多くなっています。
また「成長につながった経験がない」人は、容姿やライフステージなど、自分ひとりでは克服しにくく、成長にはつながりにくい部分に劣等感を感じる人が、「成長につながった経験がある人」よりも多くなっています。
劣等感が成長につながるかどうかは、「そもそもどのような劣等感を抱きやすいか」にもよると考えられます。
まとめ
社会人が劣等感を抱く理由は、仕事の能力だけにとどまらず、「経済力」「キャリア」「人間関係」「ライフステージ」など多岐にわたりました。
身近な同僚や友人との会話から感じることもありますし、SNSで同級生の生活を見て劣等感を抱く例も。
ネット社会で、他人の暮らしぶりや成功事例に触れやすくなったことが、他人との比較を加速させている面はあるでしょう。
そのため劣等感に悩み、ネットやSNSから離れ、劣等感の原因に触れる期間を減らした人もいました。
一方で劣等感をきっかけに成長につなげた人もいるので、劣等感は必ずしも悪いだけのものではなく、自分の気持ちややりたいこと・なりたい人間像を見つめ直すきっかけにもなります。
最後に当記事の監修者、一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会理事の徳吉陽河氏の総括コメントを紹介します。

私も劣等感にとらわれることがあります。
しかし、今回の調査から、劣等感は誰もが経験する“共通の人間性”の一部であるのだと改めて気づきました。
劣等感には、「私は本当はどうありたいのか」という自分らしさの源を探すヒントや、成長につながる道が隠れていると思います。
そして、もし劣等感を感じたならば、その気持ちをねぎらい、ほんの少しでも肯定的な視点に切り替え、未来に向けた前向きなエネルギーへと転換するのがよいと考えています(前向きな行動の習慣化:If-Then Planning法)。
そうすることで、劣等感という痛みを、自分の次なる可能性や成長につながる力に変えることができると考えています。
